……あってもいいんじゃないの?とか、またイバラですみません、みたいなことを思ってみた土曜日の夕方。
土曜日、入稿行った帰りにさ。
渋谷駅ハチ公口の、スクランブル交差点に京王バスと京王タクシーがそろってハマってて、おいおい素人の車ならともかく…と思いつつ渡った交差点の先、駅の電光掲示板で、上越上官が人身事故って流れてて。
熊谷~高崎間という表示に、てことは上越さんと長野か。と。
山形さんが振替がんばってたらしいです?
以下、不謹慎にも帰り道に脳内で繰り広げた高崎×上越(←長野)ぽい妄想。
これを胸のうちに抱えておくのは精神衛生上たいへん良くない、と思ったので吐き出してみた。
重苦しい内容なのでR-15。+具体的には書いてないけど耽美的な何某かがある。
鬱っぽいのとか病んでるのとか荒んでるのとか不幸ぽいのとか、とにかくそういうのが苦手な人は見ない方がいいと思います。
★ 熊谷駅にて ★
濃緑の制服をより濃い色に染めたまま佇む上越に、長野は駆け寄った。いや、駆け寄ろうとした。
「上越せんぱ……」
「来るな長野!」
厳しい声で告げる上越に、びくりと反射的に脚が止まる。
「――長野上官、オレが…」
視界の横から現れたのは、下を走る高崎だった。
報せを受けて、大急ぎで走ってきたのだろうに、息一つ乱さずに。
「上越上官、ここはオレと長野上官で何とかしますから、先に着替えてください」
上越の肩にそっと手を置いて声をかける高崎は、上越よりも背が高く、ひょろりと細い身体はそれでも頼もしいかたちをしていて。
なにより、あの高崎が、上越を眼を逸らすことなくまっすぐ見つめていたから。
「――わかった。わたしが戻ってくるまで、少しの間よろしく頼むよ」
蒼褪めた頬は今にも透けて、見えなくなりそう。
鉛色の瞳の中わずかに取り戻した光が、部下の姿を捉えて。明るい焔色の制服を身に纏う、部下のまっすぐな眼差しを。
そして、かすかに、微笑んだ。
安心して、預けたのだとわかった。
かなわないのだ、と、わかった。
小さいから。まだ年若いから。そんな理由はどうでもよかった。
憧れている人ならいるけれど。
誰かをうらやましいと思ったのは、初めてだった。
★ END ★
しかも在来線。
長野も基本悲恋フラグなひとだよね! てゆか初恋ってかなわないって言うものな!(酷)
★ さらに後の、高崎上越妄想。 ★
その夜、高崎は上越の執務室を訪れた。私室には戻っていないだろうと思ったから。
せめて仮眠を取っていればいいのだけれど、と思いつつノックをすると、上着を脱いだシャツ姿で出てきた上越は、まだ昏い眼をしていた。
つややかな髪が湿っているのは、シャワーを浴びたからだろう。
何度浴びただろう、と高崎は思った。事故の直後に一度、運行再開の指示を出して、ひと段落してから一度、夕食を少しでも摂れたのならきっとその前にまた、そして先ほど終業後にもう一度――といったところだろうか。
「――何? 今日は別に呼んでないけど」
けだるげに呟く声も重い。吐息は酒の匂いがした。
「はい。今日は上官からお呼びがあるだろうと思っていたので、……でも、なかったので、来ました」
自分から。
「馬鹿じゃないの、君。来たら何されるかわかってるんでしょ」
高崎は上越に呼び出しを受けることがしばしばある。それは何か運行に支障があったり、上越にとって良くないことが上で決まったり、その他些細な理由で上越の機嫌が悪い時がほとんどだ。
そういう時、上越は難癖をつけて高崎を嬲る。言葉で、腕で、脚で、――身体中で。無理やり身体を暴かれたこともあった。逆に、強引に高められた欲望を上越の中に入れさせられたことも。上越は自身が傷つくのも構わず乱暴に身体を動かした。自分で掻き毟れない胸の内を、高崎の欲で押し流すように。
高崎が、たとえば宇都宮にからかわれて怒鳴って発散させてしまう苛立ちや凶暴な情動を、この人はこういう風にしか発散させられないのだ、と気づいたから、それ以降、高崎は上越の呼び出しや命令に逆らったことはない。
逆らいたいと思わないからだ。
表情をなくした上越の鉛色の瞳は、覗きこめばそのまま呑み込まれてしまいそうで恐ろしいけれど、たったひとりでその冷たい鉛を抱えて夜を過ごす上越を思うくらいなら、殴られようが蹴られようが、首を絞められようが構わなかった。悦楽の情とともにしか叫べない、涙を流せないこの人のために、少しでも。
「わかってます。来たらどうなるかも。来なかったら、どうなるかも」
上越の身体がびくりと震えた。抱きしめた身体は、体格的にほとんど変わらないはずなのに酷く頼りなく思えて、高崎は腕に力を込めた。
上越は小さく息をついて、あやすように高崎の腕を軽く叩いた。
「今日はさすがに疲れていてね、セックスをする気分じゃないんだ。――酒でも飲む?」
「……はい」
腕を緩め、上越の後をついて部屋の奥に行くと、応接テーブルの上には日本酒の一升瓶があった。三分の一ほど残っている。瓶の脇に丸められたゴミを見るに、本日封開けをした、すなわち三分の二を上越がひとりですでに飲んだということだ。
驚くを通り越して呆れている高崎を余所に、上越は、ソファ脇の棚からグラスを出してきた。
「はい」
「は、あ、すみません、ありがとうございます」
さして酔ってもいなさそうな手つきで高崎のグラスに酒を注ぎ、上越は自分のグラスの酒を飲みほした。高崎が慌てて注げば、今度は一口だけ含む。
「上官、酒お強いんですね……」
「まぁ、酒どころの生まれだからね。日本酒は匂いが残りやすいから、普段はそんなには飲まないようにしてるんだけど」
だが、今日は飲まずにはいられなかったということだ。
「――お前たち、いつもあんなことしてるの……?」
ふいに肩にかかった重みに目をやると、上越が頭を凭れさせていた。
「あんな……あれで、よく走れる……。今まで…何度もあったんだろう…?」
思い出したのか、凭れたまま上越が身震いをした。
「慣れるものなのか? あんな目に遭って。僕だったら……僕なら気が狂いそうだ……」
ぎゅ、と腕を掴む手が震えている。高崎はグラスを置いて、上越の手を握りしめた。
「慣れませんよ。慣れてるやつなんていません。オレももちろん、中央や京浜東北だって、未だに毎回、その度に傷ついてる。だけどオレたちは、走らなきゃいけないから……」
生きている人がいる。必要としてくれる人がいる。だから。
「お前たちは、強いね……」
「あなただって、強いですよ」
上越が身を呈して数百人の命を守ったあの日のことを、高崎が忘れるはずもない。
「僕だって在来の、特急の時に、何人かの人の命を奪ったことがあったはずなのに、新幹線の開業の時だってあったのに、……久しくなかったから、忘れていたんだ……」
人のために作られたものが、人の命を奪うものにもなるということを。それが、望んだことではなかったとしても。いつだったか京浜東北や宇都宮が言っていた言葉を借りるなら、『自暴自棄な人の身勝手な選択に巻き込まれただけ』だとしても。
傷つくのは、人を好きだからだ。
人の役に立ちたいと、望むからだ。
「僕は……もう、上しか走れない……下なんてもう僕には走れないよ……」
それはいつもの上越らしいプライドから出た言葉ではなかった。
上越が、北陸新幹線の延伸開業に怯えているのは高崎も知っている。東北新幹線に投入される新車両E5や、上越の200系の引退や、少しずつ変わる新幹線のすべてのことに、『いつか』の可能性がやってくることを恐れ、それを悟られまいとことさら放埓にふるまうことを。
「何言ってるんですか。あなたが下を走ることなんてありませんよ。気まぐれでまたオレの服を取ったりしない限り」
だから、あえて冗談めかして高崎は言う。上越新幹線が、上越新幹線でなくなることなどないと。
だって高崎には想像もつかないのだ。自分の上司でないこのひとの姿など。
わがままで、捻くれていて、さみしがり屋でやさしいひと。
そんな上越の、弱気を、本音を垣間見せることのできる数少ない相手が自分だと言うのなら。
彼のためにどんなことでも出来るだろうと思う。
「上越上官」
オレの、上官。
「高崎……お前の、強さを僕に貸して……」
「Yes,上官。いくらでも」
縋る白い腕に体温と赤みが戻るまで。昏い瞳に誇りが戻るまで。
いくらでも。
合わせた唇を吸い上げながら、高崎は同じ誓いをまた胸のうちで繰り返した。
★ END ★
相互依存的病み闇高崎上越。なんか、ときより高崎が…。
ていうかこういうのは包容力があるって言わない。ので、試みは失敗に終わった感じorz。
なんだろう、ときの闇毒は二次感染の方が症状重いのか?
ところで、家に帰ってからニュースサイト見たら、Maxときは飛びこまれたんじゃなくて車内からドア開けて飛び降りられちゃったのですね。それならたぶん、ときには血はかかってないor足元に少しな気がする。正面狙って飛び込まれちゃったらアレだけど。
――ってことを知ったのが前述のとおり帰宅後だったので、これ妄想してる時は正面ダイブだと思って書いてます…。
(同じ日に山陽さんがレースルターに飛び込まれちゃったらしいけど、怪我しただけで命は助かったらしいですね。よかった。――と言っていいのか、死にたかった本人的には微妙かもですが、山陽さんの気持ちを思って私は良かったと言うことにします)
ていうか、なんか、上越さん絡みで何かがあるたびに酷く妄想をする自分がいちばん病が深い気がする……。
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