書き初めその３。ずにけ。
個人的にこのふたりはCPというよりCB(コンビ)なのですが、老夫婦かおまいらは、って感じを目指してみました。

「おかえり。疲れてるところ悪いけど君も早めに報告書出してね」
「おう」
　控え室の扉を開けるなり聞こえた声に応え目を向けると、声の主であるところの京浜東北は誰かの始末書と思われる書類に目を通している。顔のしかめ方からして、高崎あたりだろう。
「ねえ京浜東北。今帰って来たのジュニアだって分かってたの？」
　興味津々といった様子の埼京の問いに、やはり顔も上げずに京浜東北が答える。
「わかるよ。足音が違う」
「あーオレも宇都宮とジュニアはわかるぜ。あ、京浜東北と埼京もわかるかな」
　口を挟んだ高崎に、埼京は目を輝かせてすごいすごいと食い付いている。手放しで褒められて高崎も悪い気はしないようだ。
「……愛の力とか言ってくれないんだ？」
　隣に腰を下ろして問えば、手を止めた京浜東北がようやく顔を上げた。
「足音がわかる程度の愛でいいんだ？」
　悪いけど首都圏の在来は皆分かるよと。
　さすが一世紀にわたりこの地の在来線たちをまとめる立場を努める者ではある。
「それは困るな」
「じゃあ内緒で教えてあげる。……君なら足音で機嫌が分かる」
　マンガならキラーンとでも擬音が書き込まれそうな表情で微笑まれて固まった。
「……機嫌？」
「そう。君、けっこう歩き方に気分が出るんだよ。さすがにそこまで分かるのは君くらいかな」
「機嫌か……。それなら俺は、お前の文字の書き方でわかるぞ。ペンを走らせる音で」
「おや。――それなら早めに報告書出してね」
「しまった。藪蛇だったか」
「終わったらお茶淹れてあげるから」
　労いの言葉と贔屓の店のまんじゅうを餌にされては、期待に応えないわけにはいかないだろう。