6月のオンリーで配布したペーパーより。

お仕事の合間の、おひるねやまけ。
（ほんとはＦＣとか陽上とか羽白とかも書いて本にしたかったんだけど無理でした…）
続きからどぞー。

                ＊　＊　＊

　
　山手が控え室に戻ると、椅子に座らせたはずの内回りがいなかった。
　見回せば、奥の応接セットに空色が見える。近づけば、案の定京浜東北。しかも、上体を倒して眠るその腕には、内回り人形がしっかりと抱き込まれている。
「ずるい……」
　ぽろりこぼれた言葉に、山手は動揺し、紙コップを持った両手で口元を押さえた。
「ずるいのは君の方だろ」
　眠っているかと思われた京浜東北の声が聞こえ、目を開けないまま、内回り人形の手がテーブルを指さす。
　ふたつの紙コップをテーブルに置いて、内回り人形を引き取ろうとすると、違う、と声が返った。
「え？」
「こっち」
　伸びたのは空色の腕。
　おそるおそる、けれどしっかりと、人形とは比べものにならない重量を持ち上げるべく力を込める。
「それも違う」
　腕の中の身体が笑みに震えた。
「君、さっき自分でなんて言ったのさ」
　ずるい、と。
　京浜東北の抱き枕にされている内回り人形を見て、そう言ったのは確かだけれど。
「……狭い、よ……」
「狭いほうがくっつけるよ？」
　そういう問題じゃない、というかこのソファのサイズはそういうレベルじゃないと思う。
「京浜東北……寝ぼけてる……？」
「寝ぼけた振りして誘ってる」
　きづけよばか、やっと目を開けた京浜東北は、ひどいことばを、やさしい口調で眼差しで告げて。
　山手は、意を決して京浜東北の身体を抱き上げると、そのまま床に転がった。
「……そう来たか」
　一瞬だけ身を堅くした京浜東北は、けれどすぐに笑って力を抜いた。
「制服汚れるよ」
「いい」
「身体冷えるよ」
「いい」
「……山手、あったかい……」
　やまのて。――やまて。
　呼び直された名前に、薄い背を抱く腕に力を込めた。

　　Fin.